リスペクト

リスペクト

2017年、6月4日、河合楽器福岡店にて、ピアノ解体ショーに引き続いてのイベント。

グランドピアノ、アップライトピアノ、電子ピアノの聴き比べ。
As you know~!これはもちろんその通り。予想通りというか、表面的なメロディはどれを使おうと、当然その音を再現します。
 なので、今後の持続が未知数のピアノ入門時には、出費をひかえたいこともあり、電子ピアノにしておこうかという気持ちになるのは、不思議なことではありません。 ただ、電子ピアノは音色豊かなブザーと考えておけば良いと思います。 つまり、どこかの電子メーカーが、『当電子ピアノは、名器、C.ベヒシュタインの再現』のようなことを宣伝文句にしていたとしても、それは録音した有名なブランドピアノの音色を、押された鍵盤に従い、その音の再生をするというイメージです。 生で聴くような息遣い感はゼロの上、しかもやはり電子的な音です。
 電子ピアノと旧来のピアノとでは、そもそも音が出る仕組みが違うし、『質』という点では、昔っからのピアノでしか描けないものがあり、表現の奥行きは全く異なるものです。
 問題は、ある人には、探究心を持つ前に、電子ピアノからもたらされるものがすべてのような、見誤った満足を得てしまいかねないということ。だとすると、これは全くもったいない誤解です。
 それに微調整の動きを知らないままだった指先は、のちにピアノに変える日が来ても、根付いた癖は取れないのではないかという懸念が残ります。

 希望者が、大ホールのフルコンサートグランドピアノを安価で演奏できる機会が(例えば福岡では)よくありまして、そうした時に客席で聴いていると、「この人、電子ピアノ組!」 とすぐに普段の状態を識別できてしまいます。
 一様にダイナミックレンジが狭く、そもそも音が弱いケース(下手すると俗に言う『蚊の鳴くような』音)が多いです。

 電子ピアノが本領を発揮するのは、夜中など家族や近所への気遣いが必要な時の補充練習です。
 指の動かし運動《テクニック》、補充したい確認《暗譜》、それにヘッドフォンを用いての個人的な時間の楽しみ。
 時間や環境に事情がある場合は、とりわけ感謝すべき存在です。繰り返しになりますが、その価格もやはり助かります。

 さて私、 現に、当日偶然この会場(カワイ福岡 コンサートサロン「ルーチェ」)に置かれていた、フルコンサートグランドピアノ『SK-EX』 (日本に数台だけ存在。 SKは、Shigeru Kawaiの略。㈱河合楽器製作所・二代目社長 故・河合滋を意味する)に触らせていただいて、「もっと自分には容量があるよ。君はもっと表現してみてごらん」と、楽器から問いかけられているようでした。ゾッとするほど、やれることがあります。
 あ~、すごい外車より、まばゆいダイヤより、積み上げられた金塊より、私はこの楽器が欲しい、そして追いつくことがない自分の実力に、この SK-EXから哀れみを受けながら生きて行くのだ!と、大層な夢を見させていただいた次第です。
 もし『スタインウェイ』とこの 『SK-EX』が自分の元にあったとしたら、自分は迷わず、スタインウェイをオークションに出し -間違いなく良い値がつく!- 、この SK-EXの方を手元に残すだろう -それが自分にとっての価値だから- と、架空の二台のピアノが、自分の想像の中で舞いました。
(ハイ、放っておいてヨイです(^_^;))

 この 『SK-EX』 は、制作のすべての工程、部品一つから、日本の熟練工による手作りです。河合のフルコンサートグランドピアノブランドの両雄のもう一方、『EX-L』 が、決まったスペックに従い製作され、その性能、成果が揃っているのに対し、このSK-EXは、その一台毎に、それぞれ更改の研究が重ねられ変化しているそうです。
 で、そもそもこのような楽器はお値段いかほどかと言うと、二千万円あたりなのだそうです。 工程を知ると、その位するのもうなずけます。富裕層の方は、どうぞ、美しい小ホールを作られまして、そしてこの楽器を置いてほしいなぁと思いまして、それを進言致します。それはとってもセンスの良い支出だと思うのです。

 余談ですが、楽器店の方とこんな面白い会話も…。「フルコンサートグランド、ピアノが縦に長いほど、それに応じ、奏者の要求もホールに響かせられるんですよね」 「そうです」 「では、カワイとヤマハのフルコンのそれぞれの長さは?」「現在ヤマハのフルコンは275cmで、カワイは278cmですが、双方のメーカーで交互に、相手が出せば、それより奥行きのある新製品を出し合う状況です」 「へぇ、長さ競争ですね(笑)」 ちなみにスタインウェイのフルコンは274cmです。 もちろん!奥行きだけが全てではございません。

ピアノ。ひとりひとりの想いを感じ取れる楽器。
ほんの少しでもの違いを作りだすべく、日夜研究を重ね、汗するすべてのピアノ職人さん達。
楽器不況が始まってもう随分長いですが、その中でも、愛と手をかけて作られたクラフトマンシップに敬意を表します。
本当に素敵なピアノでした。

いやはや、世の中、私には真似できない職業だらけ。右を向いても左を向いても、ありとあらゆる職種にリスペクトの念は尽きません。

最後に
そう言えばスパルタ方式、私の母の旧時の話。
調律師さんが来られた時、余談の中で、母は「娘-私の事-が風邪で学校を休んだ時は、時間たっぷり。ピアノを一日練習させるんです!」と話しました。調律師さんは「それは可哀相です。ピアノはとても多くのパワーを使います。体を休ませてあげて下さい」と答えてくれました。それを聞いていた子どもの私は、調律師さんが「あーそうですか」と流して終わらず、どんなに感謝したかを想像できますか?
もう子ども時代のことなどたいして振り返りもしない、大人すぎる今になっても、思い出すエピソードです。

全ての調律師さんと、ピアノをまじめに作っている職人さんへの感謝をこめてこの記を終わります。
この日の調律師さん、「ピアノの構造」のお話、ありがとうございました!